虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)
よく聞かれる「心筋梗塞」や「狭心症」をまとめて「虚血性心疾患」といいます。
「虚血」とは「血がない状態」を意味します。つまり心臓に十分血がいきわたっていない状態が「虚血性心疾患」です。
心臓の筋肉(心筋)に血液を送り酸素と栄養素を供給する冠動脈が、動脈硬化等で狭くなったり、血管がけいれんを起こしたりすることで、血液が十分に心筋にいきわたらなくなったとき、心臓は酸欠(虚血)状態となり、胸痛等の症状としてあらわれます。
虚血状態になった心臓は…?
- 心筋に血液や酸素がいきわたらなくなり…
- 心臓が悲鳴をあげています。胸が苦しくなって痛みや絞めつけられるような症状が出ます。症状は軽いものから激しいものまでいろいろですが、どことはいえない広い範囲に症状を感じるのが特徴です。
- 全身に血液を送るポンプの機能にも影響が
- 虚血の状態が長く続くと、心臓を収縮させる心筋の動きが悪くなるので、心臓のポンプ機能にも影響が出てきて、息苦しくなる等「心不全」の症状があらわれてきます。
- 重症になると血圧が下がり、危険な不整脈が出ることも
重症になると、血圧が下がってショック状態となり、全身が虚血状態になってしまいます。
また、心筋の「心臓の電気信号」を伝える働きにも障害をきたし、「心室細動」という命にかかわる不整脈を起こすことがあります。
虚血性心疾患(1)狭心症
- 血液の需要と供給のバランスがくずれて起きる心臓の酸欠状態
- 運動時等、普段より酸素を必要とする状況では、心臓は血流量を増やして対応しようとします。ところが血液の通り道が狭くなる(狭窄)と、血液の供給が間に合わなくなり、心臓が酸欠状態になって、胸痛(狭心痛)が起こります。症状は一時的で数十秒から長くても10分くらいで自然におさまります。
狭心症の種類
- 症状の起こり方によってわかれる
労作性狭心症
運動したり、重いものを持ったりした時に、心臓に負担がかかり起こります。運動時や歩行時、駅の階段をのぼるとき等に出現し、休むと症状がおさまります。
安静時狭心症(血管れん縮性狭心症・異型狭心症)
深夜や明け方の就寝中等、安静にしていても起こります。血管のけいれんや血管内に血のかたまりができて冠動脈の血流が減ったときに起こります。
- 病状によってわかれる
安定狭心症
どのくらいの動作で発作が起きるかをある程度予測できます。安定した狭心症です。
不安定狭心症
安静時狭心症が新たに発症した、発作の回数が増えてきたり、発作止めの薬がきかなくなったり、軽い動作で発作が起こるようになった等の状態です。
※不安定狭心症は心筋梗塞になりやすい状態です。このような症状があるときはすぐに医師に相談してください。
- 狭心症の治療
- 内科的な治療としては、薬物療法や血栓溶解療法、外科的な治療としては冠動脈形成術、冠動脈バイパス術等が挙げられます。
虚血性心疾患(2)心筋梗塞
- 血管が完全につまり、その先の心筋が壊死する
血管の内側にたまったコレステロールのかたまり(プラーク)に何かの拍子で亀裂が入ると、そこをかさぶたのように血液のかたまりが覆っていきます。このかたまり(血栓)が血管を完全に塞いでしまうと、その先の心臓の筋肉には酸素が届かず細胞が死んでしまいます。これを心筋梗塞といいます。いったん死んでしまった心筋は元には戻りません。
- 突然死をまねくこともある怖い病気
- 心不全、心臓の電気的なショックやある種の不整脈などを伴うと死に至る可能性が高まります。死亡率は40%、そのうち70%は発作から1〜2時間で亡くなる緊急を要する病態です。
- 心筋梗塞を疑ったらすぐ救急車を!
- 冷や汗や吐き気を伴う非常に激しい重い胸痛が20分以上続く
- 硝酸薬(ニトログリセリン)を舌下(舌の下において、なめて溶かす)あるいは噴霧(スプレー容器を使用)しても痛みがおさまらず20分以上続く
- 顔面が蒼白になり、苦しいが、からだを動かすのもつらい
- けいれんを起こしたり意識を失ったりする(危険な不整脈が出たとき)
※ 高齢者や糖尿病の方は激しい痛みを感じないこともあります。
- 心筋梗塞の治療
再度、血液が流れるようにするために、いったん途絶えた心筋の血流を回復させること(再灌流療法)が行われます。
※心筋梗塞の救命は治療開始までの時間が鍵となります。その時間が短いほど死亡率は下がると報告されており、来院から90分以内にカテーテル治療を行うことが理想的です。
狭心症と心筋梗塞の違い
狭心症と心筋梗塞の大きなちがいは、心筋が回復するかどうかです。狭心症では心筋は回復しますが、心筋梗塞では心筋が死んでしまうので回復することはありません。
狭心症 | 心筋梗塞 | |
---|---|---|
心筋の状態 | 虚血にさらされても生きている | 一部の心筋が死んでいる |
血管の状態 | 冠動脈の狭窄のため血液が流れにくくなった状態 | 血栓で冠動脈が完全につまった状態 |
どのようなときに起こるか | 心臓の仕事量(需要)と冠血流量(供給)のバランスがくずれて起きる(労作性の場合) | 心臓の仕事量とは関係なく突然発症することがある |
症状の特徴 | 短時間の胸痛:絞めつけられる、押さえつけられるような鈍い痛み(数十秒〜10分程度) | 冷や汗や吐き気、恐怖感を伴う耐え難い痛み(20分以上) |
安静にすると | 治る | 治らない |
硝酸薬の効果 | 原因となった労作を中止したり、硝酸薬の舌下錠を使用用たりすると症状がおさまる | 硝酸薬の舌下錠を使用しても症状はおさまらない |
顔色 | 蒼白にはならない | 蒼白になる |
血圧 | 上昇する | 降下する |